『ドラゴンボール考察』 悟空によって浮き彫りになるベジータの人間性と心の葛藤
『ドラゴンボール考察』 悟空によって浮き彫りになるベジータの人間性と心の葛藤
<概要>
ベジータは、鳥山明の漫画『ドラゴンボール』に登場する架空の人物。漫画での初登場は其之二百四「さようなら孫悟空」、アニメでは『ドラゴンボールZ』第5話「悟空死す! ラストチャンスは一度だけ」。声優は堀川亮。名前の由来はベジタブル(野菜)から。サイヤ人王子としてのエリート意識が非常に強く、自信とプライドの塊のような性格である。当初は、悟空のことを下級戦士で大した敵のいない辺境惑星に送り込まれた「落ちこぼれのクズ野郎」と見下していた。同じサイヤ人でありながら地球を守ろうとする悟空を「サイヤ人の裏切り者」とも評していた。しかし、ベジータものちに地球や家族を守るべく奮闘することとなる。
日曜の朝にはついついリアルタイムで『ドラゴンボール改』を見てしまいます。連載終了して十数年経つ今でも話題の絶えない『ドラゴンボール』の一番の魅力であろうベジータについて触れてみようと思います。
ベジータを語るにおいて欠かせないのは、唯一無二のライバルであり、世界的ヒーローである悟空について語らざるを得ません。
悟空の魅力とその絶大な人気は持前の明るさ、常に前向きでポジティブ思考なところにあると思うのですが、問題は感情移入しにくい所にあります。特に、程んど自分の家族に関心が無いですよね。その辺に関しては『Dragon Ball Z 孫悟空伝説』にて語られています。

『Dragon Ball Z 孫悟空伝説(AA)』より(画像クリックで拡大)
――ブルマとチチでは、どちらが好みですか?
鳥山:実はチチはすっごく苦手なキャラで(笑)。途中から「もう描きたくないなあ」って思い始めて、それで自分自身に対するあてつけみたいな感じで「悟空と結婚させたら絶対描かないといけなくなるぞ、だから結婚させちゃえ」みたいに自虐的に描いてた(笑)。
中鶴:そんな理由だったんですか(笑)。
鳥山:僕が描く女の子はみんな同じ性格だからなぁ。ナヨナヨッとした子は描けないんですよ、気が強い感じの女の子しか描けない。
しかし、結局チチはあまり原作には登場しませんでしたけど。これは、鳥山先生と先生が最も信頼するアニメーター中鶴勝祥氏による対談の一部を抜粋したものですが、例のハリウッド化や、その他ドラゴンボールの裏設定についても触れられた読みごたえのある1冊です。
鳥山先生の私信でチチが本編にてあまり出なかったり、セルゲーム編では悟天を孕ませたのにそんな事お構いなしに天国で修業したりと、見事なまでのダメ親父でした。界王様に「心は水晶よりも透き通っている」とまで言われた悟空ですが、苦しいはずの修行を笑顔で乗り越え、家族には興味がなく、二人目の子供が生まれたのにも関わらず顔すら見せないという点においては、どうも言動から人間性が感じられません。
単純に修行して強くなり、強い相手と闘う事に快楽を得るだけの人物なので、感情移入がしにくいんだと思います。人間性が所々抜けているとも言えるんじゃないでしょうか。(それでも悟空は凄い良キャラですけどね)

ベジータ
しかし、ベジータは全く違います。地球にて悟空に敗れたベジータは、悟空を倒すため、そして、サイヤ人の王子としての宿命を自負し、辛い過酷な修行に身を投じることになります。最も人間臭いのは”強くなれない自分に対する怒り“で超サイヤ人へと変貌を遂げた事です。悟空も未来のトランクスも仲間が死ぬことで覚醒したのに対し、ベジータは自らを痛めつけることで覚醒した戦士です。
自分の事を嫌いになれる生物はこの世に人間しかいないと言われますが、ベジータはまさにソレですよ。凄く人間性あふれてます。悟空と対比すると、ベジータの人間らしさが浮き彫りになると思います。


ライバル心剥き出しのベジータ
また、魔人ブウ編においては地球という居心地の良いものに依存してしまったり、トランクスが超サイヤ人になれば、「悟飯の弟もなれるのか?…超サイヤ人に…」と、他者に対する関心を覗かせますし、ドラゴンボールファンであれば思わず笑ってしまう珍発言「……まるで超サイヤ人のバーゲンセールだな……」と、ユーモアを見せる一面もあったり。
また、トランクスと悟天のどちらが強いのか気になって仕方なかったり、天下一武道会では悟天とトランクスの勝負でトランクスが勝てば自分が勝ったかの如く喜んだりと、その感情を露呈します。


さらに、悟空に勝つためにバビディという麻薬にすら手を染める程の執念。これは、初めて悟空と闘ったエイジ762年よりエイジ774年までの12年間、孤独に、死に物狂いに体を痛めつけてきたベジータが生まれて初めて他人の力を借りた瞬間です。

ここでもベジータは自分の感情をに露わにします。生涯のライバルであるカカロットに全力で勝負を挑むのですが、肝心の悟空は超サイヤ人3という奥の手を隠しており、ベジータの12年にも及ぶ葛藤など眼中無かったのでしょうか。
ここまで心の弱さを露呈したキャラクターは個性豊かな登場人物で溢れる『ドラゴンボール』で、唯一ベジータだけです。特に劇場版ではそのベジータの心の弱さが中心に描かれたエピソードも見られます。

『燃えつきろ!!熱戦・烈戦・超激戦』より
伝説の超サイヤ人ブロリーとの壮絶な戦いを描いた名作品なのですが、純粋なサイヤ人であるベジータは、その無限の戦闘力を本能的に感じ、恐怖のあまり震えあがって動けなくなってしまいます。仕舞いには面子で最弱のピッコロにすらヘタレ呼ばわりされてしまうのですが、ブロリーの凶暴さ、恐ろしさを視聴者に色濃く感じさせるための媒体としてベジータは有効的だったのかもしれませんね。敵の恐ろしさで身動き出来できなくなるキャラはZ戦士でもベジータだけですね。

DVD-BOX 特典冊子より(画像クリックで拡大)
その効果もあってか、劇場版DVD-BOXの「DRAGON BOX THE MOVIES」購入特典には、TVアニメシリーズ、劇場シリーズの脚本を務めた小山高生氏曰く、「ブロリーのあまりの怖さに泣いた子供がいましたからね(笑)。」とコメント。
さらに、劇場版のベジータにおいて面白いコメントも見られます。

DVD-BOX 特典冊子より(画像クリックで拡大)
劇場作品の最後のほうでは、ベジータの「プライド高きサイヤ人の王子」っていう存在を意図的に貶めてましたね。それでちょっと情けないベジータになっちゃって、ベジータファンには悪いことしちゃったかな(笑)。でもこれは、最終的に悟空が勝たなきゃいけないっていう物語の大前提があったので、どうしても悟空との対比になっちゃうので仕方のないことなのかも…。でもその分、ベジータの日常の姿はかなり描けたと思います。かつて散々破壊活動をしてきたベジータが敵に「ひと様の家をぶち壊しやがって!」って怒る場面は、彼の意外な一面の表れですよ(笑)。
と、ベジータだけキャラクター設定を変えたり、他のコメントではベジータを気に入っているとのコメントも見られ、アニメ制作スタッフには愛されていた様です。さらに、第15弾『復活のフュージョン!!悟空とベジータ』にては、ベジータの心情をさらに深く掘り下げて描いてくれました。
「なんてザマだカカロット!キサマを倒すのはこのオレだという事を忘れたか!」と、いつも通りのツンデレっぷりを披露したり、今作の敵であるジャネンバを倒すために、悟空にフュージョンを提案され、当然断るのですが悟空との圧倒的戦闘力の差を見せ付けられたベジータは涙を流します。原作ではフリーザ戦にて一度だけ見せた涙を劇場版では再度見せてくれます。

さらに、原作では自爆前にトランクスにだけ一度だけ微笑みかけるんですが、今作の終わりには無二のライバルである悟空に微笑みかけます。
性格が複雑なため、ベジータの心境はなかなか理解し難いのですが、トランクスに見せた笑顔を彷彿とさせる優しい笑顔をまさか永遠のライバル悟空に見せるとは…。原作で補完されなかった要素を劇場版にて昇華してくれるのですが、こういうのはドラゴンボールファンとしては嬉しい限りですよね。
ベジータが嫌いな鳥山先生が生み出したベジータの境遇と、ベジータを愛する小山先生の双方の思い入れが絶妙にマッチングした結果がベジータという人間性溢れる良キャラを作り上げたのかもしれませんね。ドラゴンボールの原作とアニメにみるベジータの心の葛藤と、悟空によって浮き彫りになる人間らしさに我々ドラゴンボールファンは惹かれているんじゃないでしょうか。
やっべぇ、オラなんだかベジータが凄ぇイイ男に思えてきたぞ!